ピアノの暗譜は、曲が難しくなるほど複雑で大変になってきます。
この暗譜の取り組み方をとことん教えてくださったのが、故 田渕千代子先生です。(^^♪
師は、京都芸大卒後、ドイツのフライブルグ音楽大学に留学して、そこでスペイン人の教授 ローザ・サバティアに師事しました。
そこを首席で卒業し、さらにスペインのハエン国際ピアノコンクールで一位なしの二位とスペイン賞を受賞し、演奏活動を始めました。
帰国後は、大阪芸術大学や同志社大学で後進の指導をされたり、コンクールの審査員を務められたりしました。
この田渕千代子先生の特に強い印象は、暗譜に対して並々ならぬ情熱を注がれていたことです。
田渕先生が、ドイツ留学中のサバティア先生のレッスンを受けていた時のことだそうです。
レッスンで取り組み中の曲を、サバティア先生が一曲丸ごと、左手のパートだけを実に素晴らしく完成度高くしかも暗譜で弾いて見せてくれたのを聴いた時に、「あぁ、暗譜ってこんな風にしないといけないんだ・・・」と、目が覚めたそうです。
帰国後の田渕先生のリサイタルは、何度聴きに行っても、揺るぎない暗譜に支えられた見事なテクニックと音楽性が輝いた素晴らしいものでした。
先生は、生徒に対してもその高い完成度を目指して、指導されていました。
特に先生の暗譜への要求は、ピアノを専門としている弟子達でも音を上げていたくらい細かく厳しいものでした。
私にもその厳しさが身に染み付いていますが、徹底的な暗譜とはどうするのかが良くわかり、大変有難かったです。
田渕千代子先生からは、お得意なスペインものの弾き方も教えて頂きました。
スペイン音楽によく 「secco(セッコ)」という指示が出てきますが、「乾いた」という意味です。
では、乾いた音楽とはどういうものでどう演奏するのでしょうか?
言葉だけでは全く分かりません・・・
この感覚が師のレッスンから何となく分かるようになりました。
スペインの独特の感性です。
湿気の多い環境の、しっとりとした日本人の感性とは全く違うものでしょうね。
今もスペインものには、ギターの音色が被さるような乾いた感性に郷愁が入り混じったような感覚があるのが分かります。
田渕千代子先生からは、徹底した暗譜の仕方、スペインの「secco」の感性、曲を仕上げるための一連の組み立て方等、貴重なことを惜しみなく教えて頂いたのが思い出されます。
今回は、田渕千代子先生の思い出を語るうちに、懐かしさと感謝の思いが一杯になりました。
先生ありがとうございました。教えて頂いたことは、必ずレッスンで生徒たちに伝えていきます。(^^♪